松本での生活も年を越し、すっかり慣れてきました。(正月休みは何をしていたんだろう)
私の唯一の楽しみは、週末の温泉めぐりでした。
特に、浅間温泉は大のお気に入りでした。松本駅の自動販売機でビールを買い、バスに乗って浅間温泉に向かいます。人のほとんど乗っていないバスで、昼間からビールを飲みながら、ボーっと窓から見える景色に酔いしれるのが最高でした。
ひなびた温泉街を歩きながら、小さな公衆浴場をめざします。時間がゆっくりとゆっくりと流れます。狭い路地裏で子どもたちがボール遊びをしている姿でさえ絵になります。
狭い湯船では、どうしても羽を伸ばしているおじいちゃんと目が合います。話をせざるを得ません。実は、知らないおじいちゃんと話をすることが楽しいことに初めて気がつきました。聞いていてもいなくても、へぇーとうなづいていれば実に喜んでくれるのです。
しばらく、おじいちゃんと世間話をしていると、
「どこからきたんね?」という話になります。(方言を忘れてしまいました。)
「東京です。」観光客を装う自分を恥じてしまいます。
一度だけ、
「家に来なさい。」と誘われ、ついていったことがあります。
この日が1番長い日になりました。
家に入ると、相撲中継が始まっていて、大きな音が部屋中に鳴り響いています。おじいちゃんは、台所に入って夕食の準備を始めました。
食卓は、派手でなく、なんだか黄土色です。しかし、勧められながら、日本酒と一緒に食べるとなかなかいけるのです。このとき漬け込んだ野沢菜のうまさを初めて知りました。(今でも相撲中継を見るとときどき野沢菜を思い出します。)
「それじゃあ、そろそろ帰ります。」と言うと、もっとゆっくりしていけばいいのにと言いながら、ちょっと待ちなさいといって、書を書いてくれました。墨をゆっくりとすり、一字一字丁寧に書いてくれました。
「これを持って帰りなさい。」
感激した私は、この書を一生大切にしていこうと思いました。(実際は思っただけで、なくしてしまい、何を書いていたのかも忘れてしまいました。恩知らずです。)
「ありがとうございます。」
キリスト教の牧師であるおじいちゃんは、松本駅まで送ってくれました。松本駅で私を降ろすと私のために祈ってくれました。(このおじいちゃんとはこれっきりです・・・。)
アパートに着いたのは10時過ぎだったでしょうか。
部屋に入ると、渡辺くんとM男は、ねるとんを見ていました。土曜の夜は、3人でよく見ていました。女の子の「ごめんなさい。」を聞くと3人とも大喜びをしていたのです。(訳が分からない人ごめんなさい。もう、説明が出来ません。ビールを飲みながら書いているので、酔いが回ってきました。)
「先輩、おそかったっすね!」渡辺くん
「んー?、ちょっと。カワイイ子、出てる?」こんな会話をしながら、ふられた男の子を見ては喜んでいました。
そうすると、キッチンの外から恐ろしい声が聞こえてきたのです。