長野県松本市の近くに豊科駅があります。
物語は駅近くの比較的新しいマンションの1室から始まります。
「みなさん、新しくみなさんの仲間になるSさん(私のこと)です。よろしくお願いします。」
マンションのドアを開け、短い廊下のつきあたりにキッチンがあり、そこに4人の男がコタツに入って、不機嫌そうにテレビを見ていました。
私を連れてきてくれた方が話しかけても、テレビを見たまま、微妙に頭を下げたままでした。
「よろしくお願いします。」私は雰囲気に負けずに元気に挨拶しました。
「よろしくな!」パンチパーマの男が1人にっこりしてくれました。(不気味な空気です。)
「それじゃ、みなさん、Sさんのことよろしくお願いしますね。」仕事の打ち合わせなどを終わらせると私を連れてきてくれた方はそそくさと帰って行きました。私は季節労働者として、豊科にある自動車の部品工場で3ヶ月雇われることになったのです。全く知らない土地に来て、全く知らない4人と共同生活をすることになったのです。それは、12月1日(私が25歳の時でした。)のことでした。
「兄ちゃん!たんべ(たばこ)あるか!」テレビの音だけが響く静かな部屋でパンチパーマの男がわたしに言いました。
「はい。」すぐに差し出すと、
「わるいな。」タバコに火をつけると、またテレビに目が行きました。
時折、金髪の若い男がテレビを見ながら小さくヒヒヒと笑います。氷のような空気の中で、私は4人の名前を聞くことも出来ませんでした。
パンチパーマの男(見るからにやくざ風。なかなかの男前ですが、ブッーとオナラをしても知らん顔。)これからP男と呼びます
おっさん(50過ぎで、貧乏そう。かきのたねを休まず食べています。)これからK男と呼びます。
金髪の男(20歳くらい、金髪で耳にピアス。いかにも悪そう。渡辺くんです。)
青髪の男(20歳くらい、目がくりっとしてかわいい。)これからM男と呼びます。
この4人から、私が墓場まで持っていけるすばらしい思い出を頂きました。
渡辺くん、今も元気ですか。(続く)